・タイトル
イノセントデビル
・本の概要
ジャック・ザ・リッパー、エド・ゲイン、アンドレイ・チカチーロ、ジョン・ゲイシー、ジェフェリー・ダーマー。
世界を震撼させたシリアルキラーとは別ベクトルに存在する犯罪者群「イノセントデビル」。
無邪気な悪魔といわれる犯罪者の心の深淵に、犯罪心理学者と助手の美少女コンビが迫る。
・著者情報
原作 中村基 作画 宗一郎
中村基(なかむらもと)
受賞歴
スクエア・エニックス漫画大賞
第27回ネーム部門 奨励賞「上条塔子の人間探索」
月間少年マガジン・マガジンRグランドチャレンジ
第41回 ネーム部門 佳作「宇宙人を自称する生徒への正しい対処法」2016年に「月刊JOKER」で連載デビュー。
宗一郎(そういちろう)
漫画家・イラストレーターであること、作品以外は謎に包まれたミスリアスな作家さん。
点数 96点
ストーリー☆☆☆☆
画力☆☆☆☆☆
キャラクター☆☆☆☆☆
設定☆☆☆☆☆
没入感☆☆☆☆
・評価
まずはじめに、本の概要(公式の作品情報)に連なる伝説の殺人鬼達は作中に出ません。
彼等を概念として、表題でもある「イノセントデビル」とはどういう存在なのかを分かりやすく表したものだと思います。
そういう意味では期待を裏切られたので、誤解のないように先に書いておきます。
そして、美少女コンビと書いてありますが、先生(天才心理学者)は見た目が幼いだけで立派な大人だということも一応先に書いておきます。
ストーリーに関してはミステリー・サスペンス・ホラーと見せかけて、心ない者達の成長物語の一面もあるバトル漫画です。
可愛らしい絵柄ですが、殺し合う描写もあるバトル漫画です。
設定が少し特殊な分、分かりやすいとは言い難いかもしれませんが、説明はしっかりされるし、一貫性はわりとあります。
研究者としての一面と、保護者としての一面、どちらを選ぶべきかの葛藤と選択、過去との因縁に重きを置いています。
これは個人的意見ですが、バトルシーンのダイナミックさと見やすさの融合は評価すべき点だと思います。
あとはサイコパス的雰囲気を描く能力が高いと感じました。
さすがうみねこの作画を担った実力者だと思います。
登場人物の大半というか、メインキャラクターは全員ブッ飛んでいます。
まともそうな人もネジが1本は抜けてるんだろうな…と思わせる描写が必ずあります。
多種多様なイノセントデビルの存在もまた、作品の魅力の1つです。
設定面は既に示唆した通り、特殊な部類だと思います。
純粋なミステリー・ホラーではなく、純粋なバトルでもない。
心という概念は失われているはずなのに「執着心」はある。
作中に出てくる思想の話に関してはわりと規模が広くて興味深い。
物語全体のまとめ方、終着点に関しては概ね満足ですし、巻毎の「次巻が気になる」感じは強かったです。
が、素材の良さを活かしきなかったことが唯一の減点箇所でした。
以下、商品リンクを挟んで、内容に触れつつ、個人的に感じた感想を書いています。
ネタバレが気になる方はご注意下さい。
・感想
大人である上条塔子(先生)の幼さもさることながら、イノセントデビルの面々の顔立ちというかキャラクターデザインが全体的に幼く、純粋で無垢な悪魔とはよく言ったものだと感じました。
本編の内容はイノセントデビルを研究対象にさている天才学者と、幼少期に自ら親を惨殺したイノセントデビルの少女である助手が織り成す物語です。
何故ネタバレとも取れる助手の正体を書くのか?
それは、彼女(深海赤音)がイノセントデビルであることは前提として物語が進むからと、1巻の冒頭がまさに刺されて横たわる両親の死体の横で鮮血に染まり、佇む幼き少女だからです。
描写としてはカラーで色鮮やかに描かれていますが、苦手な方もいると思うので、書きました。
そんな訳で、読者が見る上条塔子と深海赤音の出会いはなかなか衝撃的で、必然的に?上条先生が赤音ちゃんの保護者となったのです。
とはいえ、家事全般は赤音ちゃんがやっているので傍目から見たらどっちが保護者か分からないです(笑)
そんな2人のほのぼのした日常は一定の癒し効果がありました。
とはいえ、それはほんの一幕の過ぎず、作品のエピソードタイトルはそれぞれなかなか物騒なものになっています。
イノセントデビルの特性を考えれば当然とも言えますが……。
この作品は全4巻ですが、1巻は主人公コンビの関係性や作品の世界観が分かりやすく、2巻はイノセントデビル同士の対決の迫力が凄く、3巻はイノセントデビルに絆はあるのか?を考える内容と、魅せ方がそれぞれで面白かったです。
ただ、4巻は駆け足で収束させた感が否めないので、そこは残念でした。
また、この作品は結構攻めたテーマの漫画だと感じました。思想とか。
象徴となる「イノセントデビル」は、生存本能に特化した存在であり、尚且つ死も痛みを恐れない。
それ故に人間には想像出来ない行動をし、手に余る。
そして、そんな存在を研究する先生もまた……。
世界を改革する為に必要なことは、「仕組みを変えることではなく、人間の脳そのものを変える必要がある」とか、「目の前の患者の命と未来の多くの命の天秤」とか。
こういうのは人類が直視すべきテーマな気はします。
例えば、「国を守りたい」と「国民を守りたい」は似て非なるものであり、「国民」とは国に属する者全てを指すとは限らない。
とかね、実際、国によっては国民=議員だったりする訳ですからね。
この作品の中では、上条先生の研究を支援している組織のお偉いさんは「国を救いたい」という思想、上条先生は「国を変えたい」訳だからその時点で相違は発生しているというか、一致していない。という形で表されていました。
出資者の思惑と研究者もしくは演者というのも裏テーマで描くつもりだったのかな?
想像でしかないですが。
話は戻りまして、
深海赤音の目的の変化は成長なのか、衰退なのかも見所かもしれません。
イノセントデビルであるが故、(肉親であれ)人の死に何も感じないから、同じく連続殺人犯に「理由」や「気持ち」を聞くサイコで猟奇的な姿、先生の隣に居たいと願う姿、その二面性や、作中で唯一神の領域へと至れた人智を越えた能力。
彼女は最高級のイノセントデビルなのか、人間なのか。
現実逃避せずに自分を受け入れた時に人は進化する?
長年共に暮らしながら根本的なことに気付かなかったのは友達がいなかったから?
相談相手の重要性も説いていたかもしれません。
そして、上条塔子もまた、自らの思想のせいで生み出してしまった怪物を再度生まない為なのか、勝手に考えて勝手に結論を出してしまう天才が故の欠陥。
ラストシーンのそれぞれの心の叫びは良かったです。
それにしても、イノセントデビルで不能犯って最強にして最凶ですよね、とんでもねぇ……
さて、最後に惜しいところを書きたいと思います。
せっかくの良テーマが活かせてないのは非常に勿体ない。
「守りたい」と「変えたい」という根本が違う同盟相手や、上条塔子は何故そこまでイノセントデビルに好かれるのか?の部分も描いて欲しかったです。
多分8巻まではいける。
後者に関しては大体分かるんですけど、ちゃんとエピソードになりそうなのに勿体ないなぁ~と思うのです。
理由は様々なれど、幾人かのイノセントデビルは愛故の暴走とも取れる理由で赤音ちゃんの命を奪うことを選択肢に入れたり、行動に移したりするんですけど、
その中の「塔子は紛こうことなき天才」、「何の補助線もない原野に新たな道を敷ける数百年に一度の稀有な才能」、「イノセントデビルよりよっぽど価値のある」
この3点は本来であれば深掘りすべき内容だと思うんですよ……。
こういう思想から単に隣にいるべきは自分という理由で襲い来る等のアクション展開も出来たし、序盤の連想殺人鬼を猟奇的に凌駕して逆に追い詰める展開も悪くなかったし、自らの正体を探る中で受け入れるかも含めてもっと苦悩してもよかった気もするんですよ。
選ばれた人間ドラマ的な結末に納得がいかない訳ではないですが、素材が良かっただけに勿体ないなさを感じたのが正直な気持ちです。
・まとめ
なんやかんで面白くて好き。
それが結論なんですけど、思想に関してはなかなかに興味深いのでラノベにならないかなぁ~って勝手に思ってます。
研究者と保護者、どちらの顔が本当の上条塔子なのか。
そこも含めて見ていただければいろんな角度から楽しめる作品だと思います!
そういえば、最終巻にて、文字というのを理解出来なければ警告も侮蔑も意味を成さない。という主旨の描写がありますが、これは相手の言葉の意味・本質や、心の内の真意を見抜けなければ……と言い換えることの出来る哲学だと思います。
個人的にこういうの好きです。
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