・タイトル
バッテリーⅣ
・本の概要
戸村の声が掠れて低くなる。「永倉、おまえ、やめるか?」身体が震えた。ずっと考えていたことだった……
強豪校・横手との練習試合で敗れた巧。
キャッチャーとして球を捕り切れなかった豪は、部活でも巧を避け続ける。
同じ頃、中途半端に終わった試合の再開申し入れのため、横手の門脇と瑞垣が新田に現れるが!?
3歳の巧を描いた文庫だけの書き下ろし短編「空を仰いで」収録。
・著者情報
あさのあつこ
1954年岡山県生まれ
青山学院大学文学部卒業。
代表作
『バッテリー』、『No.6』
大学在学中から児童文学を書き始める。
『ほたる館物語』で作家デビュー。
『バッテリー』およびその続編で野間児童文芸賞、日本児童文学者協会賞、小学館児童出版文化賞を受賞。
・点数 72点
表現力☆☆☆☆☆
深み☆☆☆☆☆
芸術性☆☆☆☆
ストーリー性☆☆☆
読みやすさ☆☆☆
・感想
まず初めに、この作品は全6冊ある小説の4冊の感想です。
1冊毎の読み終わりの感想と、全体を読み終わっての感想で異なる部分は正直あるかと思われます。
なので、ここではあくまで、『バッテリーⅣ』に関する読んでる時のリアルタイムでの感想を中心に書いています。
作品全体を通した書評はまた改めて書く予定です。
そして、以下の感想は内容に触れているので、ネタバレが気になる方はご注意下さい。
前巻の結果を受け、持っていた確固たる自信が崩壊した巧は「らしくない」態度を続けていた。
更に、巧と豪が向き合わない=バッテリーとして機能していないということで……
軟らかさ、向かって来るものを包み込んで臨機応変に対応するその柔和な雰囲気はキャッチャー独特のものか……なるほど、一理ある。
それでも「彼」ではダメだと直感するのがピッチャー独特のものであるのと同じだね。
指導をしてくれる。指示もくれる。称賛も奨励もくれる。
だが、対等に話をした記憶がない。
部活動において、その分野の天才は皆、一度は通るかもしれないこの道。
部活動が学校の所有物である以上、学校のPRに繋がるから支援は惜しまないだろうけど所詮は宣伝の為の道具だ。
教え子が賞を取れば評価に繋がるのだから逸材には目をかけ、指導に当たるが、所詮は出世の為の道具だ。
必ずしもという訳ではないが、そういう一面は間違いなくあるだろう。
お互いの利害の一致で落としどころにしているだけで、対等な関係になど到底なれるものではない。
師弟の絆は生まれやすいと思うけど、学生側が妙に大人びていたらそれすらも……
って感じかな?
そんな門脇さんにも良き理解者、友人がいた。
瑞垣さん…国語が得意のせいで会話の節々に四字熟語、ことわざ、古文等を織り混ぜるのは結構ウザいと思うけど、ややお調子者気味なそのキャラクターは嫌いじゃない。
そして、そんな瑞垣さんのポジションはショート。
口だけではない、守りの要でもあり、萎縮する後輩達の緊張をほぐし、相手チームのデータまで頭に入れててなおかつ5番……脱帽です。
門脇さんを往なすのも諭すのも幼馴染みの瑞垣さんの仕事?
これじゃあ、どっちがキャプテンなのか分からないですね…。
平たく言えば、前巻の横手側、門脇目線の話もこれはこれで面白い。
別サイドから見ると、いい試合だったんだと分かる。
巧や豪の事情等気にしなければ、水を差されなければ、最高の試合に近いものがあったのだろう。
だからこその瑞垣さんの提案なんだろうね、きっと。
同じ天才でも野手と投手で話は違う。
何故なら、投手は1人では成り立たないし、チームの為に尽くすポジションだからだ。
この差はある種、プロの世界においてもずっと続きますよね、それが意識の差に繋がる。
傲慢な天才投手とバッテリーを組む捕手ならではの葛藤……か、筆舌に尽くしがたいね。
豪の気持ちは巧には分からない。
そして、巧の気持ちも豪には分からない。というより、分かろうとしないというよりは目を背けているのだろう。
バッテリーは夫婦みたいなものだけど、必ずしも1つとは限らない。
新たなキャッチャーもチームとしては当然、選択肢に入るよなぁ~
モテたくて野球をやるのも悪いとは言わない。
そして、そういう動機のお調子者ならジュノンやジュニアの応募もあながち冗談じゃないかもね?
東谷くんが巧にここまでグイグイ意見をぶつけてくるの初めてかも?
瑞垣さん悪いな、文句は言うわ、子供に足かけるわで最悪じゃねぇか。
同性の幼馴染みだからこそ抱く複雑な感情に何とも言えない気持ちになりました。
隣に天才がいると、比べるだけ無駄だと諦めることを覚えたり、純粋にその競技が好きではいられないという感覚は不良系漫画とかでわりと見受けられるかも?
吉貞くんは飄々としてたり、ひょうきんだったりするけど、意外と熱い。
その熱さはズンと心に来るだろうなぁ~
だって図星のところをズバッとストレートに来るのだから。
小学生の子供から見たら高校生を目前とした人はおじちゃんに見えるかもね、確かに。
「兄ちゃん」と2つしか変わらないとはいえ、中一と中三の体つきはかなり違うので、そう思われてもしょうがないと思いつつ、思春期にとって、おじちゃん扱いされるのはキツいかもね?もしコンプレックスがあれば特に。
門脇さんにコンプレックスがあるかは分かりませんが。
ホームラン慣れしてるから走塁が下手ってのリアルだなぁ~
何かしらの形で長く野球に携わってるとこういうの見えてくるけど、こういうのをサラッと書いてるの素晴らしいです。
ほんっとに吉貞くんは凄いですね、チャラチャラした動機のわりには渡された資料から正確にデータ(傾向)を読み取っている……伊達や酔狂でキャッチャー役を引き受けたのではなく、やるからには本気で自分を格好よく見せたいのだろう。
それに見合うセンスと着眼点は確かにあると思う。
そして、そんな才能は持ってるけど我が儘だったり、繊細だったりするじゃじゃ馬共を乗りこなせるのか、オトムライ⁉️というのも少し面白い。
この「バッテリーⅣ」は、全体を通して、巧が主人公となる部分は控えめな印象ですが、その分、他のキャラクターの性質が見えたり、別視点から見えてくる「原田巧像」だったり、少し雰囲気の変わった巧がきちんと描写されているストーリー性というよりは人間味がある味深い内容でした。
巻末収録のエピソードは巧の祖父、洋三さんが主人公の話。
幼少期の巧も出てきます。
今では絶対に見ることの出来ない巧の可愛い部分、指導者として厳しく子供に接していた洋三さんの動揺した姿、理想の老夫婦の1つの形、巧と野球(ボール)の出会い、実は幼少期に……なサプライズと盛り沢山の書き下ろしエピソードでした。
・まとめ
これまでとは一風変わった魅せ方で作品に深みが増したのがこのバッテリーⅣでした。
関連商品と検索で引っかかったおまけ