・タイトル
束の間の一花
・本の概要
医師から余命宣告された余命を過ぎても生きている千田原一花は不確かな命を抱えながら大学に通う日々を送る。
そんなある日、未来や希望が見えない空虚な彼女の目に飛び込んできたのは……理由も告げず大学を去った元哲学講師・萬木昭文だった。
恋焦がれていた先生との再会で、一花は生きる目的を見つけるが――。
・著者情報
タダノなつ
職業 漫画家
2016年デビュー。
点数 96点
ストーリー☆☆☆☆☆
画力☆☆☆☆
キャラクター☆☆☆☆☆
設定☆☆☆☆☆
没入感☆☆☆☆☆
・感想
余命幾許もない年頃の女の子を通じて生きる希望・生きる意味・残された者の立場、等々、奥深くて分かりやすくて、切なくて一環したテーマで描かれています。
大抵の場合は泣ける……とまではいかないにしても、感動したり、心揺さぶられたりするのではないでしょうか?
闘病中の家族がいたら刺さりまくって泣けるのですが、これを「絶対」と言えるかは僕には分からないです。
ただ、それもまた、この作品の魅力になると思っています。
表情の変化や秘めた感情の表現がお見事でした。脱帽です。
そして、天真爛漫状態(素の状態)だと可愛い感じの絵柄で好みでした。
作品のテーマ的にも、それぞれに与えられた役割が非常に大きく、その都度感情を揺さぶられる程に役割を果たしています。
個性が強いというよりは、作風と合っていて、魅力的でした。
冒頭に余命宣告された女性が明るく生きる物語は正直珍しくはないと思います。
が、こういう攻め方は心に刺さるなぁ~と素直に感じました。
スッと入ってきて受け入れることが出来る分かりやすさもありましたし、そこもよかったです。
束の間の1コマとして「ある日の日常」を随所に挟んだ、本編とはことなる時間軸の4コママンガも癒しでした。
巻数が短いから一気に読もうと思えばすぐに読めることもありますが、余韻に浸りながら少しずつ読むことも出来ます。そこはお好みで。
読んでる最中も読み終わりも、作品に対する没入感は文句無しの最高級の評価です。
以下、商品リンクを挟んで、内容に触れつつ、個人的に感じた感想を書いています。
ネタバレが気になる方はご注意下さい。
余命宣告からスタート……ではなく、宣告された余命の日数が既に過ぎ、生命としては風前の灯となっている大学生の女の子が主人公に少し特殊な形の恋愛マンガ兼命について考える作品でした。
周りに心配をかけない為に、友人にも講師にも、大好きな人達にこそ、病気を打ち明けない一花ちゃんの選択は果たして正しかったのか?
その答えは読み終わっても出ていません。
体調崩して休んでいることは伝えられても、病気で長く生きられないとは誰も思ってないからお見舞いもしない(出来ない)。
これは友人としては後々響くというか、後悔を残す可能性があると思いますが、かといってどんな顔をして会えばいいかも分からないし、病気で苦しんでる友達に気を遣わせるのもあれだし、知らないからこそ冗談のように笑いあえる日々を過ごせたのだと思います。
難しい……。
そういう葛藤は、一花ちゃんの実弟にも訪れます。
彼は元々、喧嘩しながらも、憎まれ口を叩きながらも、何時も元気で明るい前向きなお姉ちゃんが大好きな弟でした。
だからこそ、病気で苦しむ姉も、恋で苦しむ姉も見たくない。
その独断から姉と大喧嘩に繋がり、あわや修復不可能な危機に陥りました。
ですが、弟くんは影の主人公兼終盤のキーマンでもあり、作中で最も成長したキャラクターだと思います。
そして、そんな2人をそっと見守り、亀裂の修復に一役も二役も買ったお母さんの冷静さと強さに泣けました。
真の意味での大人ってこの人のこと言うんだろうな……
一花ちゃんの想い人である先生こと萬木さんですが、突然大学を辞め、一花と再会するも、半分は心を閉ざした状態でした。
心を閉ざした理由と大学を辞めた理由は同じなので明言は避けますが、講師と生徒として確かな絆があり、仲がよかっただけに心が痛む場面がちらほらあります。
先生なりの優しさが痛い。ってやつですね。
しかし、どんな時も真っ直ぐで、諦めない一花ちゃんの奮闘の末、定期的に会うようになり……
恋に一生懸命になり、無茶をして体調を崩したり、病気のことを告げてないが故の顛末だったり、穏やかな空気と不穏な空気がほんとに見事に絶妙です。
作品のテーマ上、ハッピーエンドではないものの、命や病気と向き合い、前向きに生きるヒントを貰える作品だと感じました。
僕は身内が闘病中なので刺さりまくりました。
読み始めはボロボロに泣く自分を想定していましたが、結果をつよく受け止めて前を向くことの大切さを作品を通じて得ることができました。
面白いかや楽しめるかは人によると思いますが、少なくとも読んで損はない作品だと思います。
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おまけ