・タイトル
王様ゲーム 滅亡6.08
・本の概要
2010年6月8日、日本に住む高校生に"王様"から命令が届いた。
【広島県にいる者全員、岡山県に移動する】。
命令は携帯メールだけでなく、テレビ画面上にテロップのように映し出された。
高校2年生の修一と友香、智久は、半信半疑ながら岡山に向かう――
それは、日本を滅亡へと導く悲劇の始まりだった。
大人気サバイバル・ホラーの新たな扉が開かれる!
・総合得点 28点
表現力☆
深み☆☆
芸術性☆
ストーリー性☆
読みやすさ☆☆
・著者情報
金沢伸明(ぱっくんちょ)
1982年 広島市呉市出身の小説家。
大学を卒業後、IT企業に勤める傍ら、趣味として、モバゲータウンにてぱっくんちょのクリエイター名で携帯小説『王様ゲーム』を執筆します(会社を立ち上げた時期と作品の投稿時期が同時期だった為、二足のわらじ状態だった)。この著者の作品は王様ゲームだけですが、シリーズとして全12巻が双葉社から出版されています。
また、この作品は複数人の作家によりコミカライズされ、実写化、アニメ化などされています。
今回取り扱うのはこの中の双葉社により書籍化されている『文庫版の小説』になります。(第4作目です)
・感想
シリーズ4作品目に当たります。
主人公が交代した1作目とも言えます。
高層マンションの住人は結構ドライ。っていうのは少し興味深い。
そして、地デジアンテナの設置を巡っての喧騒は時代を感じますね、仕方ないけど、年々若者には伝わらなくなる表現になること間違いなしですね、悲しきかな。
数奇な運命というか、運命の皮肉というか……よりによって何でその人が?って案件なのかな、これは。
王様ゲームに関係ない殺人事件から始まるのは正直予想してなかったです。
夫と息子を比べて思わず安堵してしまった母親の気持ちと、父親の葬儀中に心ない発言とも取れるその言葉を聞いてしまった息子……これは交錯するすることはない気持ちのすれ違いってやつかな。
理屈では分かってるのに感情で許せなかったなら尚更。
政府の、官房長官が緊急会見を開いて広島県にいる高校生は岡山県に移動するように……つまり、王様の命令に従うように促す。
初手からこう来るのはシリーズ初ですね、どうやら、国としてはこの脅威に対して多少は抗体が出来ているらしい。
まあ、それと事実を国民に伝えることは違うみたいだけど。
忠告しても聞く耳を持たない高校生は最悪切り捨てる覚悟……というよりは、混乱を引き起こしたくないという保身か。
でも、現状はこれがベストなのも一応は理解出来ます。国の未来を守る為の非情な選択もまあ…仕方ないかな。
官房長官と危機管理とか人類を脅かす未曾有の脅威とか、今のご時世に合ってるかも。
合ってるというか、理解しやすくなった。
あえて心ないこと言いますが、ウジウジして悲劇の主人公ヅラしてるくせに、ニュースも会見も見た上で、悪友からの電話を受けた上で、王様ゲームも従う人も「馬鹿馬鹿しい」と言うのであれば、じゃあ携帯の電源切って広島の自宅に残ってれば?って思ってしまいます。
智久が元々明るい性格だとかは知らん。単に現状見てて一番イライラするのはお前だよ、智久。従わなかったらどうなるか気になるんなら従わずに残ってみればいいじゃないか。
さて、この最悪な第一印象を覆せるかな?
お手並み拝見です。
高校生でごった返す駅のホームで喧嘩するなとは言わんけど、殴っちゃダメだろ、そりゃあドミノ倒しにもなるし、ホームから落ちる子も現れるわ。
後は想定通りですよね、表現力がそこまで足りてないせいか、そこまでグロくはないです。
グロ耐性ない人はこの作品に辿り着いてないと思うので、まあ大丈夫でしょう。
友達の彼女より自分の命だろ!って言った駅員さんは、善意なのか、犠牲者増えたら自分が困るからなのか……その真意は分かりませんが、個人的には賛同しかねますね。
そして、そんな駅員さんの静止を振り切って「友達の彼女」を助けに行った勇敢な男の子……これは心当たりありますよね?
端的に言おう、心当たりは違いました。
悲劇の主人公ぶって絶望を履き違えてる奴に真の絶望を味あわせてくる展開かと思ったら全く違いました。
歪んでたのは僕の心か。
2回ぐらいスルーしたけど、彼の「~のだ」は口癖というか、ちょいちょいそういう語尾になる子なんだね?把握です。
好き嫌いが見事に分かれる性格ね、なるほど。
そして、今回の王様ゲームは規模も大きいし、初日に凄惨な事故が起きたことにより、世論の声がかなり邪魔となる展開みたいですね、事情を知らないからしょうがないとは思いますが。
好きにさせてほしい。でも、関心は持っててほしい。
単純明快な表現だけど、シンプルだからこそら思春期を的確に表してる気がします。
名誉ある死と無駄死の違い…これはキツいテーマですね、結果的に誰も助けられずに自分も死んでいる、行動そのものは誉れある、勇気のある意味のある死なんだと思いますが、それは第三者視点からだから言えることであって、親や身内なら複雑な心境になるし、難しいですね。
地味にバラバラだった最初の事件と先程の事故が繋がった訳ですが、智久の父親の影響がなければ彼は死ぬことはなかった。
その事実はあまりにもキツい。だから智久には言わなかったのかなって思います。
修一は元々嫌いではなかったけど、きっかけのシーン見せられたらちょっと好きになりました。ちょっとね、ちょっと。
ここまで単純で素直な奴はきっと悪い奴ではないだろう。ウザいぐらいお調子者でヘタレなのは個性だね、悪くないだろう。
一瞬の過ちは一生の過ち
本当の友達って何だろう?
自分の命と他人の命、自分の人生と友達の人生…もしもどちらかしか選べないのならどちらを選択するのが正解なのだろう?
真の友達を豆腐に例えたのはすごく良かったです。
揺らぐことはあっても決して壊れない。
素敵じゃないか。
信明の名前を知る謎の少女…ボロボロの姿と不穏で意味深な発言。
正直、不気味さしかないですが、葉月の名は心当たりしかない。
そうだね、部外者なのに干渉して運命を、未来を変えた君は咎人と言えるかもしれない。
辛いから自殺する…とかだと話は変わるけど、治る見込みがなくて、生きることが地獄の場合の安楽死はアリだと思います。
確かに命はその人だけのものではない。
でも、だからこそ、こちら側の都合で苦しい思いをさせてまで延命させるのは果たして如何なものなのか?
それは自分の人生と人の死との中でかなり考えた上での自分なりの結論です。
本人の気持ちが最優先というのが前提で、望んでいて法律でも許されるなら…それも選択肢の1つとしてアリかなって。
少し噛み砕いて解釈すると、人間が怖いと思ってるものは死と闇だけで、他は教育で植え付けられたからそう思ってるだけ…ってのは一理あります。
遺伝子レベルで刻まれた恐怖もつまりはそういうことかもしれない。
死と闇…即ち、「無」に対する漠然とした恐怖感以外は教育方針や育った環境で変わるかもしれませんね、実際。
これも愚かさというのか…悲しきかな、人間というのは実際に犠牲者が出ない限り本気にせず、一蹴してしまいがちな傾向にありますよね。
こんなの根拠もなく信じろというほうがどうかしてるけど、それでも万が一を思えば命には変えられないと思うのですが……
今だからこそ言えますが、この作中の風潮とコロナ渦は少し似てる気がします。
逆に言えば、コロナ渦になる前の自分だとここまで熱中してこの作品読んでなかった気がします。
命への向き合い方の考え方も変わりましたし。
そして、王様ゲームの最初の犠牲者が出るまでに100ページ超なのでかなりスローペースですよね、ここまでは。
別にダラダラしてるとか寄り道感はしませんが。
王様ゲームというよりは、人間を観察してる気分で読んでたので、個人的にはわりと面白かったです。
1の命令が県を越えた移動で、2の命令が男女に分かれた鬼ごっこって大規模すぎて雑さすら感じる部分もありますが、まあ、意味はきっと後々分かるんでしょうから楽しみにしておきます。
男子側は罰を受ける対象分かるけど、女子側は結果に応じてランダムというのが不公平に見えて意外と公平かもしれない。
要は女子全員が生き延びるには、男子全員を捕まえるしかないってことですもんね、これはよく出来てると思いました。
ニートは優秀なハッカーが混じってたり、ITの人材の宝庫って言いますよね、まさかここで拝めるとは思ってなかったけど。
ルール上、女子は全員信用しないほうがいい。
その疑心暗鬼こそが敵なのか、それとも疑うことは正解なのか……正しさが分からないから混乱するよね、普通。
そんな中でわりと早めにそう決断する智久は凄いかもしれない。
見直しかけたけど、やっぱ嫌いですね、ギャーギャー煩い。
大声出しても意味ないって学べよ?
あと、足遅いならチョロチョロせずに大人しくしとけよって思います。
全てにおいて嫌いなタイプかもしれません、智久。
こんな時でも…ではなく、こんな時だからこそ…のほうかもよ?
不良には不良の矜持があって、何としてでも生き残る為にも我が道を往く。的なね?
広島→岡山とは別の、九州を舞台にした王様ゲームならぬ魔女狩り祭り?
疑心暗鬼のスパイラルは破滅へのカウントダウンということか……
男子に慕われ、みんなから好かれる圧倒的カリスマ、友達の為に自分がいる。と言えてしまう幸村はある意味エゴの塊であり、作中で疑問視されている英雄の意義を問うテーマと合わせて考えるべきですよね、そういう意味では賛否両論生むし、好き嫌いも分かれそうです。
智久視点から見た場合の目下の女子のリーダーである綾野は逆に狡猾且つ、自分より人気者が嫌いで、自分の思い通りにならなければ気に入らないという分かりやすい悪役で好き嫌いは置いといて、理解はされやすい気がします。
生き残らなきゃ意味ないって観点から言えば、綾野ちゃんも間違ってないし、英雄像としては幸村も間違ってないと思う。
重視するものの違い、相容れぬ考え…この衝突はやむ無しですし、こういう時は大体仕掛けたほうが負けるんですよね、それが創作物の運命だと思います。
守るべき人がいると強くなれるし、弱くもなる。
これ、めっちゃ分かる気がします。
王様ゲームの状況とコロナ渦ってほんと似てるなぁ~と思いつつ、誰にでも出来る簡単な批判で政府への悪口しか書かないネットに辟易しています。
批判をするのであれば、対案を出すべきですよね、対案もしくは代案があって初めて批判する権利があると思うんですよ、こういう未曾有の事態には。
コロナショック後にハッカーのレベルは進化したって言うぐらいだから、クラッキング対策班とか諸々の対応で世間の声への反応は後回しとかってのは真面目にありそうだなって読んでて思いました。
智久と幸村の違いは差別しないとこなんじゃないかな?
智久は犠牲者出したくない風な雰囲気出しつつ、囚人蔑視してるし。
まあ、全員助けるなんて甘い考えが通じるほど甘くはないと思うので、非道に思われようとも命の取捨選択もしくは優先順位はちゃんと決めるべきだと思います。
頭いい設定らしいけど、200ページ過ぎても1回も頭いいって思えないですもん、智久。
勉強は出来るのかもしれないけど絶対頭は悪いだろ、こいつ……ってマジで思うし、その中途半端さに虫酸が走ります。
人間らしいといえば人間らしいけど。
友達には死んでほしくない。じゃあ友達以外ならいいのか?
自分が助けた他人の愚行を見て考えを改めたのか?
結局、幸村に触発されたに過ぎない偽者だからブレるんだろ。って思います。
まさか信明を上回る嫌いな奴が出てくるとは思わなかったです(笑)
うーん…どう考えても頭の回転が早いとは思えないセリフが続いてイライラしますね、智久のせいでテンポ悪くなってる気がします。
そういうところも嫌いなんですよね、感情で喋るな、考えてからモノを言えって思います。
仲の良さではなく、クラスメート=友達って考え方は理解出来ないので、幸村の考え方も嫌いなんですけど、綾野さえも助けようとする平等さは好感を持てます。
修一はギャンギャン騒いで煩わしいけど、戦慄の中の旋律を奏でる不気味な少年は決して間違ってはないと思う。
無差別に人が死ぬ状況で他人や友人を助けようと奮闘することも悪くはない。
が、誰よりも大切な人を後回しにする覚悟、最悪の場合に後悔しないことが最低限の条件だと思う。
大勢を助ける為に少数を犠牲にする覚悟、その中に最愛の人を入れてるなら誰も咎めないよ、そんな覚悟は幸村でさえ出来てないことだけどね。
智久の「中途半端な優しさは人を傷付ける」と、「中途半端な愛は誰も救わず、人を滅ぼす」ってのは同義だね、だから弱々しくなってるんだと思う。
代わりに吼えてる修一は序盤のお調子者感が成りを潜めて鬱陶しいことこの上ないですね、騒ぐな、話が長くなる。
過激な発想かもしれないけど、海平くん(不気味な少年)が間違っているとはやはり思えない。
この特殊な状況じゃなくても、人類が増え続ければ食糧難民、就職難民、居住難民等で溢れて共食いの一途を辿るかもしれない。
これは要はそういうことですもんね、実際、助けられた男子は自分の命可愛さに危険を冒してまで助けに来たりはしない。そっちのほうが多数だ。
これもまあ…自然の流れな気がします。
王様ゲームが止まった?
途中で中断は今までにないケースだけど、これは伏線のハッカーの仕事なのだろうか?
蛍の伏線がここでこう使われるのは面白いかもね、過去作との繋がりも悪くない。
サイバー、電脳を駆使して王様ゲームを乗っとるナノクイーン計画は想像してなかったですね、なるほど、そう来たか。
智久の甘っチョロさもイラつくけど、ある程度分かってただろうにそういう行動しか出来ない幸村は「英雄」ではなく、独りよがりなエゴイストなんだろうね。
高校生vs20歳以上の大人になりかねないこの命令は悪魔的だ。
争い化する可能性に目が行きがちだけど、孫を思う老夫婦が自ら死を選びそうな雰囲気に戦々恐々としています。
そうだよね、それも十分有り得るわ、そんなの嫌だけど。
今を切り抜けないことには未来はない。
経済の破綻は国際社会に置いて、国としての死に等しい。
このがばがば設定の残る王様ゲームが偶発的にコロナ渦の現在とリンクしているのはやはりいい。
大人の政治パートわりと好き。
優しいお兄さんの死は不可抗力とはいえ、智久と幸村のせいなんですよね、あの2人とさえ関わらなければきっと死にはしなかった……とまでは言えないけど、少なくともこういう死に方はしなかったと思います。
広瀬氏の大胆な目論見は個人的には嫌いじゃないです。
正しいのかは分からないですが、わりと大局が見えてる政治家だと思います。
王様ゲームを終わらせるために命を捨てる覚悟が必要なのは分かるけど、人間を捨てる覚悟も必要というのはどういうことなのだろう?
この作品の場合、深い意味があるのかないのか分からないからちょっと迷いますよね。
人間の心理を突いた悪魔の命令か……悪魔なのか天使なのか分からないけどね、この命令から生き残れた人は善行で、罰を受けた方は悪行だもの。
自分が生きる為に手段を選ばないようなら遅かれ早かれ裁かれるような悪行をする可能性はあった……という意味では必ずしもこの王様が悪魔とは言いきれない気がします。
有性生殖と無性生殖の話は王様ゲーム関係なく、興味深いですね。
話の流れに沿って言うならば、遺伝子的に人間と全く同じ存在でクローンのように同一個体のみが増え続けたら果たしてどうなるのか、その「新人類」に対して、僕ら現人類はどう対処するべきなのか?
そして、向こうはどう動いてくるのか?
このテーマめっちゃ興味あります。
・まとめ
小説としてはそうでもない出来なので、点数としては優れませんでしたが、着眼点自体は悪くないところを突いてた気がします。
理不尽なまでに板挟みな官房長官の大変さも描かれていますし、日本中を巻き込んだ未曾有の緊急事態ということもあり、コロナ渦の今だからこそ読むといいかもしれません。
作品の内容云々より色々考えるきっかけや、視野が広がる可能性は大いに有り得ると思います。
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