神黎の図書館

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暴力に目覚めたいじめられっ子の葛藤『ホーリーランド』

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ホーリーランド 全18巻 完結セット(ジェッツコミックス)

・タイトル

ホーリーランド

・本の概要

学校にも家庭にも身の置き所がなく、自分の存在が確認出来ない高校生・神代ユウ
ボクシングのワン・ツーを覚えた彼は″ヤンキー狩り″をするハメになり、夜の街の戦いに巻き込まれていくが…!?

・著者情報

森恒二(もり こうじ)

生年月日 1966年11月28日
出身地 東京都

さいころから体格に恵まれ、親の勧めで入ったリトルリーグで野球に打ち込む。
ちなみに所属していたチームは全国大会で優勝を経験。

本人は野球にあまり乗り気ではなく、家でのお絵描きのほうが楽しかったと語っている。
中学1年生の時に『がんばれ元気』を読んで漫画家を志す。

入学した高校で三浦建太郎と友人となり、両親がデザイナーであった三浦の家で共に漫画を描くようになった。
技来静也も同級生だったが、当時は漫画を描いておらず、交流は無かった。

森は両親との仲がうまくいかず、このころから下北沢などを遊び歩き、喧嘩に明け暮れるようになる。

大学時代はグローブ空手の同好会に所属。
漫画の投稿も続けており、賞も獲得していたが掲載には至らず、ある編集者からストーリーは編集に任せて作画だけで良いと言われたことがきっかけとなり、スランプに陥ってしまい、六本木などで荒れた生活を送っていた。

大学卒業後はデザイナーとして広告イラストやCMの絵コンテ製作などに携わっていた。
25歳のときに鈴鹿サーキットで行なわれたF1の取材の帰りにバイクで大事故に遭ったのがきっかけとなって、再び漫画の道を志す。

自身の経験を元に、2000年から『ヤングアニマル』で『ホーリーランド』の連載を開始し、人気作となった。

格闘技の愛好家で、今でもプロの格闘家とともにトレーニングを行っている。

ホーリーランド』の格闘技描写について、喧嘩をしていたころによく利用して登場人物に多用させていた技が、格闘技経験者であるという読者から「現実では使えない」「事実と違う」という指摘をされたことがあり、更にドラマ版の出演者たちに森がアクション指導をしていくうえで、体格などが自分と異なる俳優たちが再現することに苦心する技(引っ張りパンチ、タックルへの手刀など)がいくつかあったことから、「(格闘技は)体格や習った格闘技の種類の違いで、実践する人にとって違う『事実』があるのでは?」というコメントを残していた。

点数 96点

ストーリー☆☆☆☆
画力☆☆☆☆☆
キャラクター☆☆☆☆☆
設定☆☆☆☆☆
没入感☆☆☆☆

・評価
元いじめられっ子、引きこもりだった少年が街の不良達の伝説になるまでのエピソードを描いたテーマの作品です。
スポーツではなく、職業でもないストリートファイトという再起不能レベルの大怪我と隣り合わせでもありますが、暴力を肯定するわけではなく、ただ居場所を求めて彷徨った結果であり、苦悩と葛藤、恐怖と絶望の中に見出だした心地よさという少々狂気じみたテーマがわりと奥深く、終始一貫した絶対的テーマでした。
あとは何より分かりやすいです。

作中には素人やただの不良に加えて様々な格闘技経験者が出てきます。
そういう奴等をボクシングスタイルをベースとした独自の戦法でなぎ倒す様は圧巻です。
アクション面と、何とも言えない表情を組み合わせた画力は独自の魅力がありますので、その点を最大限に評価させていただきました。

基本的には街の不良が中心の物語なので、何事もストレートというか極端に振り切ってるキャラクターがちらほらいます。
悪に振り切ったほうは中途半端な小悪党の域は出ませんが、容赦なく思う存分嫌えるので、ある意味気持ちいいです。
そして、主人公と敵対するライバル的キャラクターの中には、こだわり(いつか倒す)としながらも協力的なキャラクターもいれば、自分の中で満足すればノーサイドとして、その後は気持ちよくアドバイスをくれるキャラクターもいたり、様々です。
実際にあったんだろうな、こういう時代。って思いながら読めるかもしれません。
何より、カリスマ的キャラクターの存在と、ヒロインや親友の献身的態度が良かったので、文句無しの最高評価です。

様々な格闘技と組み合わせ、それに対抗する手段や解説は、作者さんによる経験談に基づいた実体験を組み込まれたものも多く、結構練り込まれています。
連載時に疑問や批判の声を受けたのか、唐突に入る第三者ナレーションの解説があるので、格闘技に疎くてもある程度付いていける親切設計です。
個人的に「なるほど」と思ったのは、ストリートファイトの勝ち負けは純粋な強さの証明には成り得ないということ。
何故なら、競技と場所(コンクリートや砂地など)の相性で能力を十二分に発揮出来ない場合があるから。ということでした。
同じもしくは同種の競技スタイルの場合のみ、強さの格付けになるのは盲点でした。

基本的には楽しく読みましたが、中弛み箇所はあるので満点には出来ないという判断に至りました。
この中弛みは演出上、絶対に来るものなので、巻数が少なくても多くても関係ないので難しいですね……。
ただ、作品のテーマ、作中の雰囲気、物語の閉じ方は結構好みでした。


以下、商品リンクを挟んで、内容に触れつつ、個人的に感じた感想を書いています。
ネタバレが気になる方はご注意下さい。


ホーリーランド 1 (ジェッツコミックス)
ホーリーランド 2 (ジェッツコミックス)
ホーリーランド 3 (ジェッツコミックス)
ホーリーランド 4 (ジェッツコミックス)
ホーリーランド 5 (ジェッツコミックス)
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ホーリーランド 17 (ジェッツコミックス)
ホーリーランド 18 (ジェッツコミックス)




・感想
まずはじめに、著者情報にある通り、原則的には作者さん自らの経験に基づいた知識と技が多数出る作品であり、現実的に不可能に思えても、体格や格闘技の種類によっては可能ということが前提条件なので、「自分は格闘技経験者だけど、これはあり得ん」等のマウント取りを始める人には不向きな作品だと思います。

また、同作者の別作品同様(正確にはこちらがデビュー作)、作中の随所でドキュメンタリー風のナレーションによる作者解説が入ります。
このおかげでやや物語に対する集中力を削がれる反面、格闘技に詳しくない場合でもある程度の理屈として頭で理解しながら読むことが出来ます。

この作品の主人公である神代ユウは、中学時代にいじめを受け、引きこもりを経験した苦い過去を持っていて、いじめた当人達に対してはもちろん、助けなかった周りに対しても、憐れみのような目を向けてくる大人や家族にも疎外感を感じ、死を選ぼうとします。

しかし、自死する勇気もなく、再び絶望の波に教われます。

そんな中、偶然出会った本を読み、ボクシングの基本となるコンビネーション(ワン・ツー)を知り、引きこもりの時間の全てを素振りに費やすことで経験者も目を見張り、街の不良程度であれば2撃必墜で相手をのしてしまう為、自衛の為に相手を倒す内に「不良狩り」のレッテルを貼られ、街の不良から忌み嫌われ、本人の意思とは反して恨まれ、憎まれ、狙われます。

力がなくても狩られ、力を手に入れても報復や興味で付け狙われる生粋の巻き込まれ屋と言えます。

そんな彼を変えるきっかけになったのが街のカリスマでもあり、後にユウの憧れの存在にもなる伊沢マサキでした。

伊沢マサキは街の中心、ボスの1人であり、かつてはボクシング界の新星と謳われた逸材。
不良狩りがボクサーなら戦いたいし、興味があるという理由で噂の正体を探し回っていました。

偶然か必然か、彼らはきちんと出会い、対峙したことで伊沢マサキは神代ユウに強い興味を持ちます。

足さばきも構えも全てが素人なのにワン・ツーだけはボクサーのそれである、不思議な存在に何かを感じ取ったのです。

その後、最低限のフットワークや喧嘩のテクニックを教わり、ユウが強くなるのを目の当たりにしながら自分を重ねていき……


ユウとマサキを重ねたのはマサキ本人だけではなく、マサキの妹であり、ユウの同級生である伊沢マイもでした。
いろいろ不遇な扱いを受ける本作のヒロインです。

クラスでも地味で目立たない神代ユウと街の中心で華やかで強い伊沢マサキ。
対極にいた2人を直感で似てると感じたこの子はとてつもない嗅覚かもしれません。

他にも喧嘩は弱いけど、人当たりが良くて誰とでも仲良くなれて顔の広い金田シンイチというクラスメートと意気投合し、学校でも街でも常に行動を共にします。

2人でつるみ、ユウにとって初めて心を許せる友が出来た。
彼は心のオアシスだった。
そんな折……事件は起きるのでした。

不良狩りとして狙われ、様々な格闘技を扱う者と対峙しては技を吸収してどんどん強くなる神代ユウ
そんな彼と行動を共にしていれば不良達の狙いは……。

結果として、神代ユウの逆鱗に触れ、一度目の闇堕ち。
出会い頭に不良を潰すハンターと化したのです。

そして、街中でそれをするということは、必然的に組のシノギを邪魔したことになる訳であり、場を荒らす要注意人物になってしまうのであり……

そこを取り成すのもまた、伊沢兄妹の役目。
ここは見事としか言いようがないです。

クライマックス場面は人によっては唖然とするかも?
個人的にはわりと好きな展開ですが、賛否両論はあると思います。

自衛で不良を倒し、強くなれば格闘家からも目を付けられ、逃げ場を失う。
力とは何なのか?力を持つ者の義務と運命とは……

自らの居場所を探し求め、守り抜くことに拘るのは子供の証なのか?
ベストプレイス、聖地を抜け出すには街に対して思い残すこと、未練があってはいけない。

この作品では夜の街と喧嘩の中に聖地を見付けた男達が中心の物語ではありますが、普通に部内とかクラスとか友達グループとか家族とか、今だとネットの仲間やゲーム友達とか?

そういう自分にとって居心地のいい空間から巣立つ覚悟に置き換えたら結構万人に何かしらのメッセージを伝えることが出来るポテンシャルを秘めた作品だと思っています。

パッと見、この記事であらすじあらかた書いてそうですが、半分以下です。

実際に読むと、テンポもよく、作品に合った高い画力で読みやすく、巻数から受けるイメージより遥かに読みやすかったです。


・まとめ
いじめられっ子がふとしたきっかけで暴力に目覚め、被害者から加害者になり、罪悪感や葛藤に苛まれながらも前に進み、大切な人や場所を守るためなら闇に堕ちる覚悟も相討ちの覚悟も持って単騎で突っ込む内側に猛獣を飼ったタイマン最強の少年と都会の夜の長いようで短いスリリングで熱い物語でした。


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