神黎の図書館

漫画・小説・映画・アニメ・ドラマを主観によるグラフ+点数+批評+感想を綴り、作品の評価をあらゆる形で視覚化したブログです。有名な作品から掘り出し物的な作品まで生涯の内になるべく多くの作品に触れて伝えていけたら本望です。

幻想的な成長物語『ファンタジウム』

ファンタジウム コミック 全9巻完結セット (モーニングKC)

・タイトル

ファンタジウム

・本の概要

良くんと北條のおじさんの出会いは2人のその後の人生を大きく変える……
2人の出会いは運命なのか、必然なのか…血の繋がりはないものの、敬愛する祖父の愛弟子という奇妙な関係性の若き2人の幻想的な成長物語。

・著者情報

杉本亜未(すぎもと あみ)

2月27日生まれ
職業 漫画家

2014年12月25日まで、講談社のモバイルコンテンツ『Dモーニング』にて連載していた「ファンタジウム」が、宝島社「このマンガがすごい!2009」オトコ編10位にランクインした。

・点数 92点

ストーリー☆☆☆☆
画力☆☆☆☆
キャラクター☆☆☆☆☆
設定☆☆☆☆☆
没入感☆☆☆☆☆

・評価
テーマ的にやや難しくもありますが、紆余曲折してそうで小道が多い感じの作品であり、遠くから見るとわりかし一本道に見えます。

画に関しては可愛らしいデザインからは想像していなかった感情表現の技術を感じ、何よりマジック描写が見やすくてよかったです。

キャラクター面は、人間にとって出会いや周りの人間がいかに大事かが分かりました。
良い面も悪い面もそういう風に感じる程に描ききっているのでそこを評価したいです。

家柄というかマジシャンの系譜の話や、あまり一般的ではない難病、スクールカーストや芸能界の闇など、テーマは重いですが、深いです。
思想の奴隷にはなってはいけない、自ら造った檻に入ってはならない。など、社会の仕組み(システム)は融通が利かないとメスを入れたのは素晴らしかったです。

マジック・マジシャンを主役にしているだけのことはあり、心理や理について描かれていて、深いだけではなく、勉強になることも多かったです。

続きが気になるという意味でも、マジックの部分においても、解説においても、読み終わりに関しても、非常に満足感が高い作品でした。
ただし、好き嫌いは当然あると思います。


以下、商品リンクを挟んで、個人的に感じた感想を書いています。
ネタバレが気になる方はご注意下さい。


ファンタジウム(1)
ファンタジウム(2)
ファンタジウム(3)
ファンタジウム(4)
ファンタジウム(5)
ファンタジウム(6)
ファンタジウム(7)
ファンタジウム(8)
ファンタジウム(9)


・感想
タイトルからはどんな漫画なのか想像がつかなかった作品…というのが第一印象でした。

今思うと、表紙だったり扉絵だったりはヒントだったのかもしれません。
もったいぶらずに言いますと、マジック、マジシャン、芸能界、成長の4つがポイントになる作品です。

裏テーマとしては障害と周りの環境とイジメ、思惑があると思います。

そして、100点をつけた理由(※旧採点方式では100点でした)に直結するのですが、非常に勉強になる作品でした。

1つは偏見だったり、弊害について。
難読症という稀有な病気についてや、言語障害失語症をサポートする言語聴覚士という職業はこの作品を読んで初めて知りました。
稀有な病気ならではの、世間にあまり知られてないからこその生きにくさ、親の苦しみ等の弊害は見てて考えさせられるものがありました。

そして、弊害といえばマジシャンの歴史の中にもありました。
戦時中は敵性語である英語は使ってはいけなかった、愚の骨頂…そう言われ、肩身の狭い思いをしていたようです。
そんな中で生まれた
「その時々で人はつまらんものに縛られるもん」
言い得て妙なこのセリフは人類の心理を突いた真理なのかもしれません。

このような名言や考えさせられる問題提起になるセリフは多く、
「誰かの幸せは誰かの不幸の上に成り立っている」
「何も知らなければ(その人に対して)何を言ってもいいのか?」
「社会の仕組みは案外融通が利かない」
「思想の奴隷になってはいけない、自ら造った檻に入るべきではない」
「感情は行動に対して起こる記憶」
これらには強いメッセージ性があると感じました。

セリフとしてだけではなく、シチュエーション的に考えさせられたのは、
人生の目的を聞かれてすぐに答えられないのは無自覚に生きている証拠、明確な意思がないから何かにつけて浅はか、身に付いた知識が薄いから会話にとりとめがない……と、とても恋人に向けた言葉とは思えない容赦ない会話がなされたこの場面……深い。

相手に傷1つ付けずに闘いに勝つ。
そのマジシャンの誇りは格好いい。
しかし、影響力を持てば本人の意図に反して人を傷付ける可能性がある……それもきちんと描かれています。

そんな苦難の連続の中で成長していく良くんを見てると本当に感動するんですよ、なんか親心みたいなのが芽生えてハラハラしたり、目頭が熱くなったり、感情移入100%でした。

真面目に考えさせられる話だけではなく、からくり錠≒ミスディレクションという着眼点だったり、トランプは世を支配する4つの勢力で、スペード♠は貴族、ハート♥は信仰、ダイヤ♦は資本、クラブ♣は政治的力。
っていう話だったり、なかなか興味深い話が豊富なのも作品の魅力です。

フランスのカードに固有名詞付ける話とか面白かったです。
ダイヤのキングがジュリアス・シーザー、クラブのキングがアレクサンダー大王、ハートのキングはカール大帝シャルルマーニュ……権威のイメージと掛けてるんですね!

作中は真面目に考えさせられたり、成長に感動したり、勉強になったり、良くんのマジックにワクワクさせられたり、振り幅が凄いんですけど、それを感じさせない構成と演出で読みやすいんですよ、良くんのあっけらかんとした態度や飄々とした態度のおかげで暗くならずに読めるというのも大きいです。

気になるのは物語の閉じ方ぐらいですかね。
個人的には、良くんらしい幻想的なマジックって感じで好きなんですが、起承転結を重んじる方は要注意って感じですかね。

最後に、この作品を読んで一番思ったこと、伝えたいことは、
言語化も多用な表現があるべき」
ということでした。

喜怒哀楽や起承転結などの分け方は好きなんですけど、もっと細かく分ける細分化verもあって然るべきかな、と。


ちょっとごちゃっとしましたが、一言にまとめると、マジックを通して人間的に成長していく少年の物語です。


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