神黎の図書館

漫画・小説・映画・アニメ・ドラマを主観によるグラフ+点数+批評+感想を綴り、作品の評価をあらゆる形で視覚化したブログです。有名な作品から掘り出し物的な作品まで生涯の内になるべく多くの作品に触れて伝えていけたら本望です。

ガンダムSEED① すれ違う翼

機動戦士ガンダムSEED 1 すれ違う翼 (角川スニーカー文庫)

・タイトル

ガンダムSEED① すれ違う翼

・点数 92点(小説としての評価)

表現力☆☆☆☆☆
深み☆☆☆☆☆
芸術性☆☆☆☆
ストーリー性☆☆☆☆☆
読みやすさ☆☆☆☆

・点数 97点(ラノベとしての評価)

キャラクター☆☆☆☆☆
ストーリー☆☆☆☆☆
世界観☆☆☆☆☆
構成☆☆☆☆☆
文章力☆☆☆☆☆

・著者情報

後藤リウ

三重県四日市市出身。愛知県名古屋市在住。
南山大学文学部国語学国文学科を卒業後、文筆の道に進みます。
2003年にノベライズ ガンダムSEEDでデビュー。

主な作品
オリジナル
イリーガル・テクニカ
ちょこプリ!
うしろシリーズ
夢守の姫巫女シリーズ
こっこ屋のお狐さま

ノベライズ
ガンダムSEED
ガンダムSEED DESTINY
ラメント
こばと。
貞子3D2―再誕
人間回収社シリーズ

・本の概要

C.E.70、ザフト軍と地球連合軍の戦端が開かれてから11ヶ月。
中立国オーブのコロニー・ヘリオポリスで学生として生活していたキラ・ヤマトは突如戦禍に巻き込まれる。

地球軍が開発した5機の新型MSの内、4機はザフト軍に奪取された。
残された最後の1機、ストライクガンダムに乗り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。

少年たちの悲しみを抱いて立ち上がれ、ガンダム

・評価

タイトルの「すれ違う翼」は幼馴染みである主人公2人がお互いを大切に思いながらも敵対関係になる様を見事に表しています。

芸術性については心理描写がとても分かりやすく、素晴らしいのですが、打ち合わせでキャラクターに重きを置くと決まったとおっしゃられてる通り、戦闘描写はやや控えめでした。

表現力は満点です。文句無し。非の付け所がない、完璧な翻訳力と+α以上の見事な補完力で完全版ガンダムSEEDと呼ぶに相応しい内容になってます。
さすがに戦闘描写ではアニメに軍配が上がるものの、それでもシャープにコンパクトに分かりやすく伝わりやすい戦闘場面や戦場の在り方だったので、戦争と皮肉な運命を題材にした小説としても一定の需要はあるのではないかと感じました。
というのも、心理描写や掛け合いはアニメ以上に鬼気迫るものがあったり、呼んでて唸るものを感じたからです。

テーマがテーマだけに深みもあります。
幼馴染み同士で……?同族同士で……?友達を撃てるの……?という主人公のみに課せられた悲運が切ない。

読みやすさに関しては設定の部分がかなり細かかったり、主人公であるキラやアスランを襲う理不尽さや友を想う気持ち等の心理描写が心を締め付けるので僕は少し間を取りながら読みました。

嫌な間の取り方ではなく、気持ちを整理する意味も含めて、余韻を楽しんだ感じです。

さて、ここからは内容に触れていきます。
一応商品リンク全巻貼って尺を稼ぎますので、ネタバレ絶対回避派の初見さんはここまでで大丈夫です。
アニメ見るのは長いし、小説読むのもダルいけど、映画は見たいという方や、最低1回はSEEDを履修してる方はアニメ版と小説版の違いも書いているので、興味があればこのまま読み進めて頂けると幸いです。


機動戦士ガンダムSEED 1 すれ違う翼 (角川スニーカー文庫)
機動戦士ガンダムSEED 2 砂漠の虎 (角川スニーカー文庫)
機動戦士ガンダムSEED 3 平和の国 (角川スニーカー文庫)
機動戦士ガンダムSEED 4 舞い降りる剣 (角川スニーカー文庫)
機動戦士ガンダムSEED 5 終わらない明日へ (角川スニーカー文庫)


・感想
アニメ版では、ラスティが撃たれた際のアスランの絶叫が少し謎でしたが、小説版のほうではラスティは陽気な性格で、ライバル関係からギクシャクしていた仲間の関係を和らげてくれていた。等、アスランの絶叫やミゲルがストライクに向かっていった理由も明確になっています。

それにしてマリューさん…仮にも大尉なのに16歳の少年の勢いに圧されてしまうとは…エリートだからプレッシャーに弱いのか、それでいいのか?地球連邦軍…と、こちらも思わず思ってしまいますね。物語が始まってすぐなのに。

そしてキラ・ヤマトの最初の戦闘で注目すべきはこの点。
後(小説でいう2巻)に明かされる主人公キラヤマトの持つ特性『バーサーカー』ですが、彼は最初からその片鱗を見せていました。

OSを書き換えながら悪態をつき、MSに搭乗すると、まるで別人のように口調が荒くなっています。
戦闘経験ないときからこれとはこの人ヤバい人だ…

とはいえ、自分が使ってしまった武器の威力を見て戦意喪失する等、そういう感性も持ち合わせているので、初めから狂戦士だった訳ではないのです。
この狂戦士としては未熟な感じもまたいい。そう感じました。

もちろん、ムウとラウの描写も丁寧に描かれています。
2人が対峙した時、具体的にどういう感覚なのかも書かれていて、それはお互い憎しみ合うわな…と感じました。

そして大人になった今、改めてユニウス・セブン、血のバレンタインデーの設定を読んだ時、いろいろ考えさせられました。
『戦争』について。

この設定はやはり、実際に日本と諸外国との間で起こったいくつかの出来事をモチーフにしているのでしょうか…

『プラント』は『地球』によって迫害され、虐げられてきた歴史があり、住みかを追いやられ、食糧の生産を禁じ、その
食糧を与えることで強制的に技術力を供給させていた。

つまりは植民地や奴隷制度に近いものなんだと感じました。
また、戦争になったきっかけの核攻撃を民間人が住んでいる場所に撃ち込む等、とても考えされる内容でした。

元々ファースト世代の頃より、ガンダムで戦争を学ぶ。という話は聞いていましたが、ガンダムSEEDは21世紀のファーストガンダム…そういった造りをあえてやったのかもしれませんね。

僕が何を思い浮かべたのかはここでは語りません。語れません。
ですが、この作品を読んで、もしも僕と同じようなことを思う方がいれば、それは学びのきっかけになるかもしれません。

更に言うと、コーディネーターであるだけで迫害されるという事実は現実世界で言うところの人種差別です。

キラとサイが揃ってラクスの歌を聴く場面で、傷心のキラを癒していたラクスの歌声。

そんな場面ですら…友人としてキラを慰め、励ましてくれていたサイが何気なく放った

「―でもやっぱ、それも遺伝子いじってそうしたもんなのかね?」

の一言でキラは思わぬ形で更なる追い打ちを受ける。など、そっちもいろいろ考えさせられる内容でした。


そしてキラにとってのトドメの一撃。
地球側の(フレイが言い出し、ナタルが実行した)保護したはずのラクスを人質として楯にするというやり方への驚き、怒り、そして幼なじみの親友が吐き捨てるように言った言葉。

自分を含めてコーディネーターを道具として扱う地球軍の為に同胞と戦わなければならない少年の葛藤が細かく描かれています。

ここで怒りで詰めよってきたキラに対してムウさんが放った言葉が

「そういう情けねえことしかできねえのは、俺達が弱いからだろ」

「俺にもお前にも艦長や副艦長を非難する権利はねえよ……」


自身も悔しがりながらキラを諭すような大人の対応のムウさんが格好いい。

そしてこの1巻だけに留まらない今後も度々キラを揺さぶることになるフレイの一言、

「―あんた、自分もコーディネーターだからって、本気で戦ってないんでしょ!」

というパワーフレーズ登場します。

16歳の若さで、ストライクを扱えるのがコーディネーターであるキラだけだから…そんな理由で無理矢理戦わされ、それでも友達を守りたくて必死に戦った。

幼なじみで親友のアスランと敵対してまで戦ってるのに…何故こんなことを言われなきゃいけないんだ?という気持ちと、
心のどこかで同胞であるコーディネーターと戦いたくないと思っていたから守れなかったのではないか…
という葛藤が頭をぐるぐる駆け巡り、壊れそうだったキラを救ったのはまたもラクスでした。

あとはキラを本気で心配して追いかけてきてキラの思いを汲んで手助けしてくれたトールの存在がドン底だったキラが立ち直るきっかけになっていると思います。

トールは本当に人種で差別をせずに、それでいて自分の気持ちとは別にキラの気持ちも尊重出来る正真正銘のいい奴です。

そしてキラを取り巻く人間関係はこの1巻で大きく変化しました。
好き嫌いが激しく、人見知りをする性格で友人はキラしかいないアスラン(説得の時の彼の感情はまるで恋焦がれる相手への告白のような印象を受けました)、

物腰が軟らかく、人当たりが良くて誰にでも優しいキラはトールが真実を知ってもなお、キラの帰還を心から喜んでくれることに安堵して、戻ってきてよかったと心から思うようになり、

キラとトールの会話を物陰で聞いてしまったフレイは何かを企み、キラに対して少し棘のあるカズイは仲間達で唯一、キラがもう民間人に戻れないのではないか?という含みのある言葉をサイに言い、キラを仲間だと思ってるサイはカズイの一言で気付かされる…そういう人間模様も丁寧に描かれています。

また、この作品独特の表現として『SEEDセンス』または『種割』と呼ばれるものがあります。
分かりやすく言えば『覚醒』ということなのでしょう。

最初はフレイに言われた言葉と自分を見送るフレイと非難民の少女の姿を思い浮かべ、何がなんでも守らなければ!という強い意思から、無意識に覚醒したのでしょう。
その様子も丁寧に描かれています。

・まとめ
ガンダムSEED全体のテーマは2人の主人公と2つの視点から見た非戦です。
僕、個人的には改めて読んでみて哀しさや切なさ、虚しさを感じつつ、学び取れるものも多かったので読み直して良かったなって感じてます。

あと、これは余談中の余談ですが、ガンダムSEEDにおけるキラの変化は教祖ラクスに洗脳された説。

これについては議論の余地がありそうですが、そちらの方向で考えるとしたら憧れをいた女の子にボロクソに言われ、その子の父親を守れなかった自責の念から解き放った時点でラクスの勝ちかなって思います。

ガンダムSEEDは元々アニメを見てたので基本的な内容は知っていました。
アニメを見ていた頃は僕も幼く、キラが好きで、キラに対して冷酷とも言えるナタルが嫌いでした。

でも今は軍人気質のナタルの言ってることも分かるようになりました。
マリューさんとほぼ同じ気持ちです。

そして、元々友人という訳ではないのに、若いキラの立場と状況を見て、考えて、本気で哀しむムウさん、マリューさん、ハルバートン提督のことが大好きになりました。

それにしても、昔からアスランは誠実なんだろうけど、女性にだらしないところが見受けられるから嫌いだ!
なんて思ってましたけど、改めて見直したら天然で人間関係をクラッシュしてる?キラもなかなか…って思っちゃいました。

それこそ、アニメの頃はサイも嫌いでしたが、小説読んでると序盤のサイは友達想いのいい奴じゃないですか!
ごめんな…サイ。ん?ごめんなさいってダジャレみたいになった!?
文字に起こすまで気付きませんでした…

とにもかくにも、「は?ガンダムの小説?読まねえよ」とか、「アニメが原作の小説でしょ?ならアニメ見るよ」とか毛嫌いせずに読んでほしい小説です。

ちなみにアニメで言うとことろの13話までの内容が収録されています。
内容はほぼ同一ながら一部の描写が変わっているのでアニメのガンダムSEED好きだった方にもサプライズな描写があったりなかったり。

「逃げ出した腰抜け兵が!!」だっけ?
イザークのあれ、なかったな。
キラ目線だから聞こえてないとも取れるし、そもそもそういうセリフは発してなくて、ストライクを狙うつもりが結果的にああなったとも取れる。
そんな演出で魅力的でした。

ちなみにあとがきのところはサンライズの方が担当されているので、ちょこっとだけアニメの裏話も書かれています。
アニメと小説の違いにも触れられています。
声優さんの名前も出されています。

ちなみに小説版の作者である後藤先生はトールがお気に入りだそうです!
どうりでやたらトールが気になる訳だ!
トールの心理描写の描き方めちゃくちゃ上手いです。


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